アイルランドの遺跡の旅

アイルランドの遺跡の旅 1


伸びる時間

 8月の中旬、アイルランドのダブリンに来ていました。明日の早朝6時50分に、一日ツアーでモハーの断崖(The Cliffs of Moher)へ行くことになっていて、明後日には古代の遺跡ニューグレンジ(Newgrange)を訪れることにしていました。
 その集合場所を確認するために、旅行会社から示された地図を頼りに、教会の広場の前にあるモリ―・マローンの銅像を探して歩いていました。この辺りは細い道が入り組んでいて、ホテルから歩いて7、8分というのですが、30分以上も歩き回ってようやく確認できました。

 ダブリンの街は、観光客で混雑し、オコンネル通りと川に近いこの辺りは、レストランやパブやお土産屋がひしめき合っていました。曲がりくねって入り組んだ細い通りを、観光客をかき分けて歩いていました。スペイン語やポルトガル語が多く聞こえてきます。アメリカ人(特にアイルランド移民の子孫たち)、南米の人々、 またアイルランドは通貨がユーロなのでポルトガル人、スペイン人、フランス人、ドイツ人など欧州からもやってきていました。ちょうど新宿の歌舞伎町を国際的にしたようでした。東京やロンドンと違うのは、建物が古び、くすんでいて、時代を経た映画のロケ地のような雰囲気がありました。

 当日、出発時間6時50分を目指して、6時半にホテルをでました。気温は11度と肌寒く、薄暗い通りには人影がありません。昨日覚えた道の記憶を注意深く進みましたが、二つ目の三叉路の信号のある場所で真っ直ぐ行くべきか、左に曲がるべきか迷いました。ここで間違ったら大変だという気持ちがでて、誰かに尋ねようと思っても、人影がありません。ここで時間をロスできないと思い、決断して左の道を進みました。

 しばらくして、ちょっと違う気もしましたが、引き返す余裕がありません。やがて、大きな通りに突き当り、道を間違えたと思いました。その時、大通りの信号を渡ってきた40代の女性が現れました。咄嗟に道を尋ねました。その女性は、ちらっと私の顔を見ました。そして、「ついて来なさい」 といって、彼女が進もうとしていた反対の道を、大股でどんどん歩き始めました。時計を見たら、6時50分まで後5分もありません。彼女の歩くスピードが並みではないのか、私を20メートル以上もぐんぐん引き離し、角を曲がると姿が見えません。なぜか私の周りの時間がゆっくり伸びていくような感覚で、私は必死で後を追いました。すると遠くで待っていてくれました。

 私は、モリ―・マローン像のミーテイングポイントに、時間通り間に合いました。私はその銅像を見上げました。そして案内してくれた女性にお礼を言おうとしましたが、すでに彼女の姿はありませんでした。
 ツアーの二階建ての大型バスは、走り出す準備をしていました。運転手兼ガイドが名簿のチェックをし、バスに乗り込むと、観光客でもう上下一杯でした。50名は乗っていたでしょうか。私が二階の座席に着くと、すぐにバスは出発しました。そしてダブリンの西方、250キロ先に位置するモハーの断崖を目指しました

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