ヨーガを生きがいとして

ヨーガを生きがいとして 6


幸せとは何か?

 私たちは、幸せとは、精神的に元気であることだと思っています。幸福についての研究を調べると、「幸せとは、人生の方向性に対する満足度」 と定義されているようです。
 つまり幸せとは、常に最高の気分でいることではなく、人生に意義を感じられているかどうかであるというのです。

 さっきも述べたように私たちの脳は、何が起きるかを待っているわけではなく、何かが起きることを予測しているのです。そして脳は、何が起きるかを予測し、それと実際に起きたことを延々と照らし合わせるのが、私たちの人生なのです。

 たとえばパンデミックのコロナ禍、2021年の英国人の高齢者に、身体の健康状態に関する質問をしたところ、「健康状態は良好だ」 と答えた人の割合が、前年よりも上がっていたそうです。英国内で10万人もの人が亡くなったこの年、医療がひっ迫して、むしろ健康状態は悪化したのでした。なぜ健康状態がよくなったと感じたのでしょうか? それは毎日テレビでコロナに罹り、苦しんでいる患者をニュースで見ていて、良い健康状態の基準が変わったからだと思われます。そのニュースを見ているお年寄りは、自分の頭痛や腰痛や膝の痛みは、大した問題だと思わなくなり、自分の健康に対する見方が変わったからです。

 つまり私たちは、起きていることを客観的に分析しているのではなく、自分の期待と経験を比較するようにプログラミングされているのです。
 人間は合理的な生き物ではないのです。ただ少ないよりも多い方を喜ぶのではなく、隣の人よりも多いのを喜ぶのです。自分がどのくらい幸せかは、隣の人の状態によるのです。自分と他人を比べてしまうのです。

 たとえばあるヨーガ教室に通っていた40代の女性が、熱心に練習して2年かけてかなり難しいポーズができて、本人も満足していました。ところが20代の娘が入って来て、半年でその難しいポーズを難なくつくって自慢していました。それを見て、40代の女性は悔しさと嫉妬ではらわたが煮えくり返ったというのです。これも自分と他人を比べてしまうからです。

 またクリスマスの時期になると、5千個のLEDイルミネーションで自分の家を飾り付けて満足し、喜びを感じていた人が、翌年隣の家が1万個のLEDを点けたら負けた、悔しいと思ったのです。自分の高級車を自慢していた男性は、隣の娘が高級な外国車を乗り回しているのを見た瞬間、穏やかでなくなります。また、ある年配の女性は、戦争の時の方がよかったというのです。戦地に送り出した夫が、無事に帰ってくることだけを考えていたので、それ以外の悩みは悩みとして感じられなかったからです。

 このように人間の脳は、あらゆる体験を自分の期待と照らし合わせるように進化してきました。そこで、幸せだけを求めて、本当に幸せになるのでしょうか。
 テレビや雑誌などでは、幸せを求める広告やコマーシャルが氾濫しています。「幸せの、チカラに」 「幸せを長く」 「しあわせをシェアしよう」 「幸せになりたければ」 「しあわせ素肌」 「幸せは買えない。けど、買い物は私を幸せにしてくれる」 「今すぐできる!幸せになるための3つのポイント」 などなど。まるで 「幸せ」 という言葉を武器にして、幸せになれと脅迫されているようです。 

 また若いモデルが、南国の夕焼けをバックに写っている美しい容姿の写真や動画が、やたらに出てきます。これらを見ると、人間の脳は自分と若いモデルを比べてしまうのです。それらを何回も見せられると劣等感を感じて、幸せな気分になれません。その反動なのか、最近インスタグラムでは映える(ばえる)写真よりも、普通で平凡のばえない写真が支持されているそうです。見ていてこちらの方が比べないので落ち着くからです。だから他人と比べて、幸せを追い求めるのはやめた方がいいのです。

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