いのちの知恵 望月勇著

いのちの知恵


    いのちの知恵 人生を深く生きるために

     望月勇 著

  • 出版社:KADOKAWA
  • 出版日:2016年4月18日
  • 販売形式:単行本


著者よりのメッセージ


今、世の中では、自分探しがブームになっているようです。

本当の自分を探し求めて、○○をするという文章がよく目につきます。それに対して、自分探しなど時間を浪費するだけで所詮無意味だ、止めておいた方がいい、という意見もあります。これは、半分当たっているように思います。といいますのは、本当の自分とは何かが、私たちには分かっていないからです。その分からないものを懸命に探し求めても、本当の自分を見つけることはできません。確かに時間の浪費になるだけです。

その点ヨーガでは、本当の自分がはっきりと分かっています。本当の自分とは、見るものであり、見られているもの(肉体や心)は本当の自分ではないといいます。『いのちの知恵』では、そのことを深く考えさせるようにしています。

そうして考えを深めていくうちに、本当の自分は肉体や心ではない。本当の自分は日々、心と身体が行為するのを見ている自分であり、本当の自分は、日々、心が苦しんだり、悲しんだり、喜んだり、そして欲望を生み出すことを知っている自分であって、本当の自分はそれらに巻き込まれることはない、ということを理解していきます。
そうして、ヨーガでは、その本当の自分に出会うことができる方法を提示していることが分かってきます。

このようにして、ヨーガの本質に目を向けさせ、その視点から日本の伝統芸能「能」や、芭蕉の俳句や、ブッダの解脱、仏教や瞑想の本質などに迫り、第五章でこの大変な時代を私たちはどう生きればいいのかを問う内容になっています。

最近、読者からこのようなメールをいただきました。
「望月様、私は読んでいて、宇宙に起こるすべての事、自然災害などに関しては、『本来清浄涅槃』と、考える事ができますが、戦争とか、テロとか、残虐な殺人事件などに関しても、同じような解釈をするということでしょうか?
このふたつは、根本から違うと思いますが、どのように、解釈すれば、いいのでしょうか?」

それでは、このことについて、もう少し深く考えてみたいと思います。これは、普通の常識で考えると大変に難しいです。

たとえで考えてみます。白光はプリズムを通ると、屈折して虹色になります。これらが、人間の心の喜び、愛、不安、妬み、思いやり、殺意など、さまざまな感情だと考えてください。
私たち一人ひとりは、このプリズムのようなもので、このすべての色は、全体(白光=本当の自分)にとって必要なのです。私たちの心のいろいろな側面は、その一つを抑圧してしまうと自分の中にゆがみを作ってしまい、この心のゆがみが事件を引き起こす原因になったりします。

最近19人の障碍者が殺害される事件がありました。犯人は、重い障碍者は生きていても意味がないという心の抑圧が、このような事件を引き起こしたのです。
色もそうです。ある一つの色が嫌だからといって、それを抹殺してしまうと、この宇宙に本来のスペクトルができなくなってしまうのです。
人間も、いろいろな側面を持っていますが、そのすべてを表現する必要はありませんが、すべての面が人間を存在させるには必要なのです。

この宇宙に、存在価値がないようなチリも必要なのです。同じように、この地球上には自然災害とか、戦争とかテロとか、残虐な殺人もありますが、あってもいいのです。あるべきなのです。それらがあっても宇宙はまったく変わりません。なぜならそれらを、宇宙が受け入れているからです。それらが、この宇宙を構成しているからです。それらが、いいとか悪いとか、不合理だとか判断するのは、人間の都合で決めたことです。

この宇宙を作っているタペストリーには、たった一つの網目が必要なのです。その何でもない一つの網目がないと、タペストリーは存在出来ないのです。
自然災害も人災も、たった一つの網目です。そのたった一つの網目が複雑に織りなされて、宇宙のタペストリーは出来上がっています。

このように考えると、自然災害も人災も、根本的に一緒なのです。
まさに「本来清浄涅槃」なのです。

これが理解できると、私たちの生き方も分かってきます。
私たちは、自己のよい面にフォーカスして、生きればいいのです。できれば、日々、宇宙が進歩向上しているように、崇高な自分にフォーカスして、日々、進歩向上して生きればいいのです。

そうして、今生で出来るところまで生きればいいのです。このような生き方が、心を深める生き方なのです。


望月 勇

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