2017年11月チベットとネパール思索の旅

チベットとネパール思索の旅 (2)


羽田空港から広州を経由してチベットへ

 11月2日の午後、羽田空港の108番ゲートから、私たちグループ38人は、チベットとネパールへの旅の第一歩を踏み出しました。108という数字は、108の煩悩を抱えた旅ともいえます、と添乗員さんがいうものですから、この先にどんなことが待ち受けているのか、ちょっと不安になりました。

 最初は、中国の広州へ行きました。ここで一泊して翌日、重慶経由でチベットのラサへ向かうのです。広州の空港は広くて、飛行機から降りてバスにのり、空港内を20分以上も走って、ようやく空港の建物に到着する具合です。中国では北京、上海に次いで、3番目に大きな空港といいます。こんなに大きな立派な空港なのに、トイレは和式でした。下水管が細いので、使用した紙は近くの屑籠にいれなければなりません。それでも幸いなことには、トイレに仕切りがあったことです。

 私は、中国も今回初めてでした。以前、中国に住んでいた人から紹介されて、ロンドンから北京へ出かけ、気功家のグループと会う予定でしたが、直前に天安門事件が起きて、中国行を中止したことがありました。この初めての中国は、38人全員で、広いホテルのバンケットルームを借り切ってヨーガを行いました。
 早朝、ホテルから空港へ向かいましたが、外は工事だらけで、ほこりっぽい感じでした。空港に着くと、飛行機は出発が遅れるということでした。重慶で深い霧が発生しているのが原因とのこと。そして、1時間が2時間、3時間の遅れとなりましたが、それでも午後に出発できました。


チベットへ入る

 重慶では、まだ霧が残っていました。ストップオーバーして、いよいよチベットのラサへ向かいます。
 飛行機の窓からは、眼下に褐色の沙漠の大地が広がり、その大地には、鋭い山あり、なだらかな小山のような丘が連なり、その先にはまた鋭い峰が現れて、蛇行する河と深い渓谷が望まれます。その河のほとりに目を凝らすと、点在した民家が閑散と見えます。あの荒涼とした大地を、7世紀の玄奘三蔵たち一行が歩いて旅をしたのだろうかと思うと、過去と現在の時空を共有しているような不思議な気分になりました。

 振り返ってみると、玄奘三蔵との接点は、結構多いことに気がつきました。アフガニスタンのバーミアン(大石仏)、パキスタンのカイバル峠、ネパールのルンビニ(ブッダ生誕の地)、インドのクシナガラ(涅槃の地)、ブッダガヤ(覚りの地)、前正覚山の洞窟、サールナート(初めての説法)、ラージギール(霊鷲山)、ナーランダ(仏教大学)、祇園精舎、アジャンターの石窟寺院など11カ所にも及びます。去年(2016年)訪れたデカン高原にあるアジャンターの石窟寺院で、現地のガイドさんが唱えたマントラの響きは、巨大な石窟の空間にこだまして、鳥肌が立つほど神秘的でした。当時僧侶たちが読経し、楽器を鳴らして勤行をしたというのですが、一体どんな響きだったのでしょうか。

 やがてチベットに近づいて来ると、地肌を現した鋭い稜線が連なり、その片側の斜面に、砂糖をまぶしたような白い雪が見えました。そうして、遥か遠くの彼方の雲の上には、ヒマラヤ山脈が白く輝いていました。

 夕方、陽が沈む前に、チベットのラサ空港に着きました。山々にまったく樹はありません。空港の周辺に、わずかばかりの緑が植えられている風景でした。
 初めて見るチベットの山々は、硬い岩ばかりで、生き物を拒絶している感じでした。
 飛行機を降りると、足が重く、手足がじんじんしびれるような感覚に気づきました。いきなり標高が高い所に移動したせいに違いありません。富士山の頂上より少し低い海抜3650メートルくらいなので、手足の末端の毛細血管が酸欠を補おうとして、細動運動を起こしているようでした。

 ホテルは旧市街地にあり、建物の中はリフォームされたばかりで、大変にきれいで、食事の品数も豊富だったので意外でした。きっと中国の資本がチベットに入っているのでしょう。そして、内装が金色とカラフルな色をふんだんに使ってあるので、チベット仏教のマンダラの世界にいるようでした。
 ラサのホテルの広間で、毎日、朝と夕、食事前に、ヨーガと瞑想をしました。酸素が薄いので強い呼吸法は時間を短縮しました。酸欠が高山病を引き起こす原因とういことで、バスの中で居眠りをすると起こされ、カメラを構えて、一瞬息を止めた直後に、深呼吸するようにうながされ、常に深い呼吸をするように注意されました。
 後で聞くと、皆さんは結構酸欠で大変だったようですが、私は頭が痛くなったり、気分が悪くなったりということは、チベット滞在中はまったくありませんでした。ヨーガの長年の呼吸法で、体が無駄な酸素を必要としない省エネ体質になっていたのかもしれません。

 ラサに着いて最初の夜、家内は高山病の予防薬ダイアモックスを前日から飲んでいたにもかかわらず、様子がおかしくなりました。ベッドにぐったりとして動きません。顔に血の気がなく、苦しいといます。無理に動かすと錯乱状態になり、これはまずいと思い、やっと体を起こして、息を吐いて、吸ってといって、それを繰り返させました。これは軽度の高山病です。添乗員さんを呼んで、酸素ボンベを使うしかないかと思ったら、そのうちにビニール袋に吐きました。それで少し楽になったようですが、まだ苦しいといいます。背中をさすって、呼吸を深くするように促していたら、もう一度吐きました。それでやっと楽になり、枕を背中に当てて、そのまま座った状態で深呼吸をして休むように言いました。
 普通は、夜寝ている間に呼吸が浅くなって酸欠になり、朝起きて頭痛になるケースが多いようです。

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