太古、人類の祖先は古細菌であった 1-2

太古、人類の祖先は古細菌であった 1-2

生命の進化系統樹
 最近では、遺伝子の解析による分子系統樹が、より正確に生物の進化を表すようになりました。
 生命の進化系統樹によると、出発点に古細菌の微生物がいます。それが、原核生物(核膜のない、バクテリアなど)と、真核生物(核膜のある、真菌や原虫など)の二つに分かれます。人間は真核生物から進化したといわれます。
 今まで生命の誕生は、海からだと考えられてきました。最近では生命が住めない深海の熱水噴出孔や黄鉄鉱や粘土の表面や、陸上の温泉のような場所から微生物が見つかり、さらに地下1000メートルくらいにある帯水層(古代の水)に、謎の微生物がいるということが分かってきました。これまでの微生物より微小で、遺伝子の多くが欠落している奇妙な微生物で、CPRと略称される古細菌です。普通の生物が生きていけない地下深部で多数見つかっています。もしかすると、CPR古細菌は、地球で最初に誕生した生命の名残を残す微生物かも知れないといいます。今、生命の起源は、海ではなくて、陸ではないか、という説も出ているくらいです。

 その世界からたった一度生まれた微生物がだんだんと増えて、27億年前に光合成をして酸素を作る微生物、シノアバクテリアが現れます。この原核生物のシノアバクテリアは藍藻で、ときに大繁殖してアオコとよばれる現象を引き起こします。このシアノバクテリアが突然変異で酸素を作ることになるのですが、もしこの奇跡の突然変異がなかったら、太陽からの紫外線を防ぐオゾン層も、この地球上に動植物が住むこともできなかったでしょう。この酸素を作るシノアバクテリアが、やがて地球を覆う海全体に繁茂して行きます。その時、酸素と同時に副産物で酸化鉄ができます。これは、今地球上のあちこちの山脈に赤い地肌を見せていますが、この鉄がなかったら、人類は現在の文明を築くことはできなかったでしょう。紀元前2500年頃にトルコのアナトリアで製鉄が発明され、ヒッタイト帝国がそれを武器に利用し、その製鉄技術を遊牧民がユーラシア大陸へ運び、中国から朝鮮半島へ伝わり、弥生時代に日本へもたらされたという、鉄器のロマンは、存在しなかったでしょう。
 このように考えて行くと、微生物は地球上に生息する全生物の祖先なのであり、人類の文明の立役者なのです。

細菌とウイルス
 物質世界からどうして生命が誕生したのでしょうか。これは、大きな謎ですが、想像力をたくましくて考えてみると、太古の地球で、物質世界の中で莫大な分子の集合体が、火山と熱水によって、物質世界の境界を突き破って奇跡のような生命を誕生させたといえないでしょうか。
 そうして生まれた唯一奇跡の細胞が、細胞核のない原核細胞と細胞核のある真核細胞になります。
 ここで細菌とウイルスの違いについてみてみます。細菌は光学顕微鏡(普通の顕微鏡)で見ることができますが、ウイルスはさらに倍率の高い電子顕微鏡でないと見ることができないほど小さいのです。ウイルスには細胞がありません。細菌は生物で、ウイルスは生物ではないと言われます。というのは、生物の定義は、以下の三つの条件を満たしていることと決められているからです。
 ①体が膜によって外界とはっきり分けられている。 ②エネルギーを使って生命の維持活動を行う。 ③子孫を残す(自分の複製を作る)
 ウイルスは、①では細胞膜は持っていませんが、核酸(DNAかRNA)を一つタンパク質や脂質でできた殻で包み、外界との境界があります。③では子孫を残します。ただ②ではエネルギー代謝を行いませんので、三つの条件を満たさないので、生物ではないと言われるのです。それでも、微生物という括りの中に入れられているので、ややこしいのです。
 現在、ウイルスはどれくらい種類があるのかわかっていないそうです。ただ病気を引き起こすウイルスは少ないそうです。一滴の海水には何億というウイルスがいて、コップ一杯なら何兆個という数になるそうです。
 私たちの腸には、一人の腸内に腸内細菌が100兆個から1000兆個あり、私たちの体のうち90%が微生物でできていると言いましたが、ウイルスはその細菌と共存しているというのです。「皮膚常在細菌ウイルス」 と 「腸内細菌ウイルス」 です。
 その腸内細菌ウイルスは、腸内細菌が増えすぎるのを、抑えている可能性もあるというのです。そして、ある生物はウイルスから恩恵を受けてきた可能性が高いというのです。ヒトの胎盤ができたのはウイルスのおかげで、2003年にヒトゲノムが解読され、その結果ヒトゲノム全体の半分以上がウイルスに由来することが判明したというのです。
 細菌は結晶化しませんが、ウイルスは結晶化するので、生物ではないといわれるのです。結晶とは、分子などが規則正しくならんだ状態、食塩や氷などです。つまりウイルスは、物質と生物のあいだなのです。(『ウイルスの本当がわかる』武村政春、さくら舎)

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