太古、人類の祖先は古細菌であった 2-7

太古、人類の祖先は古細菌であった 2-7

 脳認知の科学者ラマンチャンドランは、「(略) 自己の理解をめざす真の動因は、(略) わたしたちみんなに共通するもっと深いところにある衝動、すなわち自分自身を理解したいという欲求からくる。進化の過程で、いったん自己認識が誕生したら、その生物個体は、「私はだれか?」 と問わずにはいられない。荒涼とした空間と莫大な時間の広がりを経て、「私」 と呼ばれる人が突然に誕生した。その人はどこから来たのだろうか? なぜここに? なぜいま? (略) ひょっとすると五万年前にも、別の人がまさにその場所に立ち、まったく同じ問いかけをしていたかもしれない。」 と述べています。(『脳のなかの天使』V・S・ラマンチャンドラン著、山下篤子訳、角川書店)

 私たちは、大昔から、自分はいったい誰だろう、と問いかけてきました。意識が、そう意識した時から、それは人間に宿命づけられているのかもしれません。
 何だ、人間の起源は、単なる細菌にすぎないのか、ということもできます。また、手のひらに乗るくらい小さな脳が、宇宙や自分自身を意識するようになったのは、驚嘆と最大の謎である、と思うこともできます。どちらを思っても結構ですが、それを微生物から考えてみることで、新しい気づきがあれば幸いです。
 私としては、あらゆる生命現象の根底に、レンマ的知性があり、宇宙はその活動に充たされている、微生物も人間も例外ではない、という大乗仏教の叡智に改めて深く感銘しました。

シンクロニシティの提供者
 今回も、不思議なシンクロニシティ(共時性)がありました。
 前回は、『テムズとともに』(徳仁親王著)のことを書きましたが、「1993年に、学習院で配られました創立125周年記念の本を思い出し、探しても見つからないので、ネットに出てる中古を14000円の高額で購入しまして読みました」、という人もいました。

 また漆の専門家のKMさんからメールが届きました。天皇陛下の 『テムズとともに』は、イギリスに住んでいる時に、古本屋で発見して読んだというのです。
 当時浩宮様には、これといった尊敬の気持ちはもっていなかったが、この本を読んで天皇ご一家への気持ちが大きく変わったというのです。
 その後、キューガーデンの植物資料室で、漆関係の品の調査を行った時、当時のキューガーデンの所長から、「日本の皇族の知識は尋常ではない。海外の王族が見学にくるが日本の皇族ほど知識を持っている王族には、これまで会ったことがない」と言って、平成天皇皇后両陛下がキューガーデンに訪問された時、正門を入ってすぐ、「皇后陛下が、『まあ、さすがキューガーデン、珍しいクルミの木をお持ちですね』 と仰せられたのには、本当にびっくりした」 そうです。この木に気づくのは、クルミの専門家以外には、ほとんどいないそうです。
 その後も、ご夫妻は次々に園内の植物の名前を仰せられて感想を述べられ、唖然とした、と言うのです。所長が、「日本の皇族は、専門家級の知識を持っていて凄い」 と言ったので、KMさんは大変に誇らしく思ったそうです。

 このメールを読んで、熊野古道へ行った折、南方熊楠記念館を訪れたことを思い出しました。谷脇幹雄館長が、熊楠のご進講を受講された昭和天皇の影響で、皇室関の人々は皆熱心にやってきて植物を鑑賞します、とお話されていたことを思い出しました。
 そして、漆研究家のKMさんは、芸大を出た友人が百姓になり、馬鹿でもできるので「バカ米」と名付けて作った玄米のバカ米を送ってくれたのです。そして、その中に本を一冊忍ばせてありました。三木成夫の 『いのちの波』 でした。これはシンクロニシティで、私の元にやって来たのだと思いました。

 もう一人、東京の高校の先生をしている男性KKさんが、私のエッセイ 「こころの持ち方」をお読みになり、「どの行、文にも心が反応しています。実は教員という仕事をしていると、自分が無意識にロゴス中心の見方になってしまうことを自覚していました。言葉を超えること、はいつも課題です。言葉は便利なだけに、扱い方が難しいと感じています。先生の『レンマ』についてのお話はいつも心にしみこむ思いです。先生の仰るレンマの世界は、この数年の経験がなければ、私はわからなかったと思います。」 と述べて、「最近読んだ本で、先生のお話と内容が触れ合うようなものがあり、驚いたものがあります。どちらも生物学の本です。」 と言って 「実重重実著『生物に世界はどう見えるか』(新曜社) と 傳田光洋著『驚きの皮膚』(講談社) を紹介してくれました。また『沈黙を越えて』(柴田保之著)、『約束の大地』(みぞろぎ梨穂著)も、ちょうど、私が身体障害者について考えたい内容でしたので、まさにシンクロニシティでした。
 これらの不思議なシンクロニシティがなければ、今回のエッセイも書けなかったかもしれません。KMさんとKKさんに心より感謝いたします。

2020年6月15日      望月 勇


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