48年ぶりのお花見

48年ぶりのお花見 6


縄文人の森

 私は、古代ブリトン人がビーカー人に絶滅されたのと違って、縄文人と弥生人が共存できたのは、森が大きく関係しているのではないかと思っています。特に人が入らない神聖な森には、ハイパーソニックサウンドという人間には聞こえない高周波の音が出ていることが分かっています。この高周波の音が、心をリラックスさせ、癒す効果があることが最近分かっています。日本の山が国土の7割を越す森林に囲まれた土地に住んでいれば、森から放たれるハイパーソニックサウンドの効果によって、縄文人は残虐な行為を抑制し、平和に穏やかに暮らすことができたのかもしれません。縄文時代が、1万5千年も支配者によらず、平等に、平和に、穏やかな日々が驚異的に長く続いたことを考えれば納得ができます。

 また木の霊を敬う日本人は、古来から森で木を伐るときに、その木の前で儀式をしてから伐採し、それからきこりたちは、木の霊を慰めるために木塚を建ててきました。
 たとえば、森で木を伐るとき、きこりは、木の霊にお願いして木を切るのです。そうして木材として使った後、きこりは、木塚を作って木の霊を慰霊したのです。これはきこりが、右脳のささやきを神の声として聞き入り、左脳が実行して木を伐り、木塚を建てたのであって、きこりの意識で建てたわけではありません。きこりたちには、ほとんど昔からの習慣と思って無意識にやってきたことでしょう。
 きっとこのような精神構造が、一万年以上続いた縄文時代の大昔から現代に至るまで、日本人の心の底に、無意識に流れていると思われます。その自然の木の霊は、日本人の道徳心に、あるいは天皇制を敬う心に響き渡っていると思われます。

 たとえば日本人の道徳心を考えた外国人がいます。フランスの詩人・劇作家ポール・クローデルです。彼は、駐日大使として大正10年(1921年)に日本へやってきました。歌舞伎や能に造詣が深かったクローデルは、日本の芸術家達を次のように述べています。
 「(略) 目に見える世界とは、彼らにとって「知恵」(サジエス)への絶えることのない暗示(アリュージョン)であったということをよく知るならば、よく理解できよう。例えば、この国に生える大木が言葉では言い尽くせないようなゆっくりとした感覚によってわれわれが悪へ走ることへの拒否(ノン)を言うようにである。暗示(アリュージョン)であって幻想(イリュージョン)ではない。(『朝日の中の黒い鳥』ポール・クローデル著、内藤高訳、講談社学芸文庫)
 クローデルは、日本人の道徳心は、大木の霊から学んだもので、悪へ走ることを戒められていると直感していました。それは、自然の木の霊が、日本人の残虐へ向かう行動を抑制していたからではないでしょうか。


ストーンヘンジ

 ここで、ついでながら、古代ブリトン人が作った巨石文明の遺跡、ストーンヘンジを見てみましょう。
 スコットランドのオークニー諸島という辺鄙な海岸に、巨石文明の原点があります。ここは、5千年前の石造りの堅牢な都でした。6千年前には、すでに穀物を栽培する農耕社会でした。石造りの家は間口の大きさから皆同じで、平等で、平和に暮らしていました。
 それから、英国の南部地方に、ソールズベリーがあり、そこにストーンヘンジという有名な巨石文明の遺跡があります。この遺跡は、古代ブリトン人が全国から集まって、死者の霊を慰めるために、石器作りのエキスパートが永遠につながるお墓のモニュメントを巨石で作ったものと思われています。
 古代ブリトン人の巨石文明は、ギリシャ文明よりも古いのですが、高度なテクノロジーを持っていました。円形サークルを作るのに、科学のコンパスを知っていたようです。また詳細な太陽の軌跡を正確に知っていて、冬至の光を儀式に利用していました。そして、円形に並べられた一つの巨石の重さは、50トンもあります。エジプトの石の重さ
 2.5トンや、モアイ像の石像の重さ20トンに比べると、その大きさは並外れて大きいのです。
 そして、その巨石は、美と威厳を保つためにエンタシス(柱の中央部をややふくらまし、眼の錯覚を利用して、柱に美しく安定性を増す手法)を利用しています。ギリシャのパルテノン神殿や、法隆寺の柱は同じエンタシスを利用しています。また高度な石と石をつなぐ石組技術を使っています。このような美的センスと高度な技術を、ギリシャ文明に先駆けてすでに古代ブリトン人が持っていたことに驚きます。
 この古代ブリトン人が、ストーンヘンジを作ってわずか数百年後に、突然姿を消してしまうのです。古代ブリトン人は、石器を利用して平等に、平和に生きていました。これは、縄文人と同じです。違うところは、古代ブリトン人の優れた巨石文明は、永らく忘れ去られて後世の英国人に伝わらなかったのです。日本では縄文人の文化は、弥生人に伝わり、現代日本人に受け継がれています。

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