なぜ量子論は、東洋思想に近づくのか 8
31歳でノーベル賞を受賞した天才物理学者のハイゼンベルクは、マトリックス力学(行列力学)を作ります。マトリックス力学は、レンマ的思考法を応用して生まれたようです。行と列を並べ変えながらものが生み出され、変化していき、それが全体を動かして世界ができているという考え方は、仏教の縁起と同じです。彼は原子の構造を見たら、そこに見えるのは意識の構造そのものであるといいます。
また1933年にノーベル物理学賞を受賞し、量子力学を打ち立てたシュレーディンガーは、古代インドのウパニシャッド哲学に造詣が深く、量子論が、生命を知るための鍵を握っているのではないかと考えていたようです。
このように眺めていくと、超一流の物理学者たちは、西洋のロゴスから東洋のレンマへ目を向けてきたことがよく分かります。
ここで思い起こすのは、明治時代です。明治は、西欧文明がどっと日本に押し寄せ、ロゴスが日本人に浸透して行きました。まだ大乗仏教のレンマ的知性が残っている明治時代に生まれた二人に注目してみます。
一人は、粘菌学者南方熊楠です。知の巨人と言われた熊楠は、完璧にロゴスを習得して英国の大英博物館で活躍していました。彼は、粘菌の不思議な特質― 死んだり生まれたり、動物になったり植物になったり ― を観察し、また大仏教の縁起の考えも身に着けていましたので、目に見えるロゴスだけがすべてではないと感じていました。目に見える部分が隠れると、目に見えない部分が現れ、交互に消えては現れて世界ができていると考えました。彼は、ロゴスとレンマを融合して新しい世界を創ろうと格闘していたように思われます。
もう一人、明治時代の哲学者西田幾多郎は、西洋近代科学は、物を外側から見て分析する見方で、それは他物によって言い表すことで、すべて翻訳である、本当は物を内から見て、物自身になって見る、つまり直感で見なければ、真実は分からないと言っています。
西田は、禅の瞑想を実践しながら、西洋哲学ではない、ロゴスとレンマを融合した新しい哲学を打ち立てようとしていた一人かもしれません。
以上の考察から、男性と女性の考え方の違いが分かりました。私の本やエッセイを読んで、こんなこと理解できるだろうか、という私の杞憂をよそに、直感で理解して、心をコントロールしてたくましく生きる女性の方々は、男性と違って、レンマ的知性でものごとを理解しているからなのだということがよく分かりました。
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
2022年10月6日 望月 勇