「量子もつれ」について考えたこと 4
アインシュタインの提唱から約50年経って、このアラン・アスペの結果が出た時、物理学者たちは、ようやく量子もつれに興味を持ち始めました。
アインシュタインが恐れたように、宇宙の果てと果てでもテレパシーのようなシンクロが起きてしまう。ということは、全ての物体は、観測するまで実在していないという奇妙なことが起きていることになります。物理学者たちは、この奇妙なシンクロを 「非局所性」 と呼んで検証すべき問題と捉え始めているのです。
こうして量子もつれの存在が確実になった1990年代、新たな若者たちが、波のような分身と、光速をこえるものがあったら、それを使ってしまおうと考えました。そうして、量子暗号、量子コンピューター、量子テレポテーションなどが出てきました。
従来のコンピューターは一秒一秒計算を進めますが、量子コンピューターはあちこちでもつれ合った状態になり、計算を始めた途端、瞬時にシンクロ現象を起こしながら、異次元の速さで答えに到達するのです。
そして三人目の挑戦者は、アントン・ツァイリンガーでした。クラウザーやアスペの実験から30年後、この最古参の物理学者は、本当にテレパシーのような 「非局所性」 があるのか、この世は、見た時にしか存在しない、あやふやなものなのかに興味を持っていました。
彼は、今までの全ての実験は研究室内で行なわれていたので、宇宙の果てと果てで量子もつれによるシンクロが確実に起きるとは証明されていないと思いました。
そして 「もし宇宙にある光源を利用すれば、(抜け穴の問題を生んできた)原因を、何十億光年も昔に押しやることができる」 と考えたのです。
そこで、宇宙の天体で地上の観測装置の精度を上げるために、切り替え装置を望遠鏡に接続し、宇宙の初期に生まれた 「クェーサー」 と呼ばれる天体を2つ使いました。この星の明滅のタイミングで観測装置を切り替えれば、計算上、宇宙の果てと果てで検証したと同じ効果が得られます。
そして、2018年、ついに最終結果がでました。量子もつれが存在する確率は、「99.999999999999999999%」
それは、量子もつれが宇宙の初期から存在し、今も至る所にあること。たとえどんなに離れていても、瞬時に影響し合うテレパシーのような非局所性があること。実在が曖昧であること(存在は見た時にしか存在しない)。それが、この宇宙の現実であることが証明されたのでした。
2022年のノーベル物理学賞は、量子もつれの研究で、ジョン・クラウザー博士(米国)、アラン・アスペ博士(フランス)とアントン・ツァイリンガー博士(オーストリア)の3人の科学者が受賞しました。
デジタルコンピューターと量子コンピューターを比べると、従来型コンピューターとはケタ違いで、異次元の計算能力を実現しています。そこで従来のコンピューターではお手上げの問題を、量子もつれを使った量子コンピューターがあれば、解きほぐすことが可能であると考えられます。エネルギー革命、がんや遺伝子や寿命などの量子医療などに、また地球環境問題や宇宙をシミュレートすることができると期待されています。
ところで私たちは、2000年に及ぶ思索と実験を経ても、古代ギリシア人が問うた素朴な疑問、「世界は何によって創られているのか?」 に答えられていないと物理学者は言います。
学校のほとんどの教科書では、宇宙を構成しているのは原子だと書かれています。でも、今ではそれは間違っていると分かっています。実は、宇宙を構成しているのは謎めいた見えないダークマター(暗黒物質27%)と、ダークエネルギー(暗黒エネルギー68%)だというのです。宇宙の大半は、大きな謎に包まれたままなのです。