2016年インド旅行記(1) ブッダガヤのスーパームーン

ブッダガヤのスーパームーン (2)

 

 昼食後は、ブッダへ乳粥を差し上げたスジャータという村娘の家があった遺跡へ出かけました。それから、洞窟での六年間の苦行をやめたブッダが、下山して、ナイランジャナー河(尼連禅河)で沐浴している折、スジャータに乳粥を貰った場所へ歩いて行きました。
 周りは、田んぼの稲が一面に黄色くなっています。そのあぜ道を歩きました。この稲穂の稔る風景は、何となく懐かしい感じがします。周りにヤシの木がなければ、日本ののどかな田舎の風景と変わりません。畑のところどころに、見事なカリフラワーや大きなオクラや、かぼちゃ、瓜、大豆が生っています。

 

 この風景を眺めて、私は改めてお米の稔る豊な大地に、仏教は生まれたのだということを再認識しました。お釈迦様のお父様のお名前も浄飯王(じょうぼんのう)と言いい、「飯」という字がついていますから、昔からお米の取れる豊な自然環境だったのです。仏教が穏やかな宗教なのは、そんな農村地帯から生まれたからでしょう。
 その反対に、アラビア半島のセム族の興した宗教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は、自然環境の厳しい砂漠から生まれた一神教です。私も、若いころ中東の砂漠を旅しましたが、風景はただ褐色の大地と真っ青な空だけで、荒涼としていました。ですから、これら一神教の聖地では、力ずくで相手を抑え込もうとする為、いつも血の匂いがして、そこで瞑想する気にはなれませんでした。

 

 田んぼのあぜ道を抜けると、泥壁でできた民家があります。ここビハール州は、ビハールとは僧院という意味で、ブッダの僧院があった土地なので、ビハール州と名付けられていて、インドで一番貧しい州だそうです。インド人は、ビハール州はインドの恥じだというのですが、私が40年前にインドを旅した時とほとんど変わっていませんでした。土壁でできている家が多く、バスの屋根の上にも、乗客がぎっしりと乗っている光景は、昔のままです。他の州では禁止されているそうですが。その貧しい州は、稲作が豊で、子供たちの目が一番きれいだと思いました。

 

 その民家の道路の前で、主婦が牛のフンを集めて、両手でこねています。それを、手のひらサイズ位に平たくして、壁や樹の幹に張り付けて乾かし、燃料にするのです。私たちはこの光景を見て、何と不潔だろう、これでよく病気にならないものだ、と心配してしまいます。

 

 実は、最近分かったことは、私たちの体のうち、90%が微生物でできているということです。私たちの指先には、英国の人口を上回る数の微生物が付着しているのだそうです。人間の腸管内だけでも100兆個存在し、およそ4000種の微生物が、それぞれのテリトリーで暮らしているというのです。人間は、大古から微生物と共存して生きてきたのです。免疫がそれら微生物を黙認しているのは、人体に役に立つ微生物に、住んでもらっているのです。そのおかげで、人体に有害な細菌がついても、もとから住み着いている善玉の微生物がそれらを排除してくれるのです。そうして微生物が、人体を守ってくれているのです。ですから、安易に抗生物質を多く使う人や、神経質に手ばかり洗う人や、抗菌グッズをやたらに使う人は、身体を守ってくれる微生物を排除することになり、その為有害な細菌に侵され易くなってしまうのです。

 

 また欧米人に多い異常な肥満体は、ペニシリンが発見されたあと、もちろんぺニシンの発見で多くの人命が救われましたが、抗生物質を牛や豚などの家畜に混ぜて使って来たのが原因ではないか、と言われています。家畜に抗生物質入りの餌を与えるメリットは、家畜の病気を防ぐのと、家畜の成長が早く、体重が増えることで利益が上がることです。その抗生物質入りの家畜の肉を食べたらどうなるか、食べた人は途方もなく太ってしまうのです。そういうことが分かってきて、腸管の微生物をバランスよくするために、健康な人の便を腸に移植してやると肥満が治り、アレルギーやうつ状態や自閉症も改善することが分かってきました。
 21世紀病と言われるアレルギーなど、免疫疾患系の病気は、抗生物質などの使い過ぎで、身体の細菌を排除して清潔になり過ぎた為に、免疫の仕事がなくなり、自分の神経などを攻撃してしまうために起きると言われています。このインドの子供たちや牛のフンをこねている主婦の人たちには、体と微生物の適度な共存のおかげで、花粉症やアトピーやアレルギーなどとは無関係のだな、と私はその時思いました。