竹富島で日本人のルーツを考える 6
最後に、今にして思えば、これも、私のなかに眠る縄文人のDNAの叫びだったのではないでしょうか。それは、トルコのイスタンブールからインドへ向かう途中の出来事でした。『気の言葉』 から引用します。
「人生で私を心底感動させた光景はいくつかありますが、その一つは、この旅で、イランの首都テヘランからメシェッド(イスラム教シーア派の聖地である大都市)へ向かう夜行バスから見た光景でした。見た瞬間から、「俺はこの光景を生涯忘れないだろう」 という確信がありました。それは、「俺はアジア人だ!」 と大声で叫びたくなるような、強烈な自覚を呼び起こすものでもありました。
真夜中の窓外では、唯一の灯りである月が丸く天空に浮かび、雪の砂漠を煌々と照らしていました。
(略)
じっと外を眺めているうちに、突然、「俺は今、母なるアジアの大地に抱かれているのだ」 という想念が沸き起こって、私の全身を電流のように貫きました。
(略)
この光景に激しく感銘を受けた私は、ノートに次のように記しました。
月は こうこうと
イランの沙漠を照らし
沙漠につもった雪は
白い巨象の背中のように
静寂な夜のしじまに
仄白く浮かぶ
そうして その沙漠の雪は
あるところでは 雲海のように
湖のように
あるいは 大河の流れのように
光っている
その光景で
月は 俺を追いかけ
沙漠の雪は
象の群れのように 押し寄せ
津波のように 迫り
バスは 飲み込まれまいとして
必死に走る
沙漠のはるか遠く
寒村の灯の瞬きが見えた
月よ!
沙漠よ!
俺は アジアの大地に帰って来たのだ
そして 俺は アジア人なのだ!
土の匂いをかいで
アジアの匂いをかいで
しょうしょうと吹く 風の音を聞いて
俺は 今 そう自覚したのだった
俺のなかのアジアの血が
インドへのびる沙漠の道を
無数の輝く星々を
惹きつけて 止まない
そうして 俺は
無限の安堵に つつまれる
アジアの大地を踏みしめて
やがて夜が白々と明け、バスは、イラン第二の商業都市メシェッドに着きました。私の脳裏には、夜中に見た月下の砂漠の光景がまだあざやかに残っており、精神は激しく高揚したままでした。バスの座席は狭く窮屈で、座っているだけで何か苦行を強いられたようなものですが、そんなことは忘れてしまうくらいの劇的な体験だったのです。
バスを降りるとき、私はまた自分が内部の深い部分から変わったことを、静かに感じていました。」 (『気の言葉』の「劇的な感動を呼び起こした光景」から)
2024年3月19日 望月 勇
本エッセイの感想文を紹介