旅と輪廻 (4)
白鳥一羽
スウェーデンの海の見える町にて
物を売るのに疲れはて
ぼくは
海が見えると
ぶらりと鉄道の駅を降りた
ぼくは
浜辺に座って
海を眺めた
白鳥一羽
海に浮かんで知らん顔
長い首をうなだれて
波のまにまに
ぷかりぷかりと浮いている
沖にはヨットが並んでも
白鳥一羽 知らん顔
波のまにまに
ぷかりぷかりと浮いている
空ではカモメがさわいでも
白鳥一羽 知らん顔
波のまにまに
ぷかりぷかりと浮いている
野草が風になびいても
白鳥一羽 知らん顔
波のまにまに
ぷかりぷかりと浮いている
白鳥は
波のまにまに
ものがなし
(詩集 『北冥』 角川書店より)
そんな気恥ずかしさがあって始めたのですが、だんだん首飾りを売り続けていると、どうしたら売れるかというこつが分かってきました。熱心に見ている人には、声をかけない、ちょっと躊躇している人には、さっと首飾りを首にかけて上げる、去年買ったのか壊れた首飾りを持って来たおばあさんには、無料で笑顔で直してあげる、すると必ず新しいのを買ってくれる、などなど。夜は針金細工で大忙しとなりました。
そんなことを一カ月半もしていたら、気が付くとかなりな売り上げになっていたのです。針金がシルバーメッキできれいなことと、手作りということもあって、人々の生活が裕福なのか値段を結構高くしても売れました。こうして予想外のお金を手に入れることができた私は、急きょインドを目指して、スウェーデンを脱出したのでした。その時の気持ちを、手帳に書き記しました。
スウェーデンを去る時に
白夜の冷めたような太陽から遠く
ぼくはスウェーデンを去りつつある
野うさぎのふさふさした毛のような草原と
馬のたてがみのような麦畑は
突っ走る列車の風に吹かれて
さざ波のように
野ずらを渡ってゆく
そのかすかに匂う秋風のなかに
ぼくは
白 赤 黄 紫 の花々を見た
野の花は打ち上げ花火のように
彩られ
背丈のある野草は
早すぎる秋の風に吹かれて
大きく揺れている
空には綿がしの雲
夏の雲
日光はあらゆる隙間に射し込んで
木漏れ日ゆれる森のなか
スウェーデンの過ぎ行く夏は
やさしくほほ笑み
去り行くぼくを
そっと見送る
(詩集 『北冥』 角川書店より)