量子論の不思議な世界

量子論の不思議な世界 6


「量子もつれ」

 最近、重要な話題として浮上してきたのが、「量子もつれ」 という問題です。この 「量子もつれ」 の現象を最初に指摘したのは、アインシュタインでした。「量子力学が正しいとすると、こんなおかしな現象が起こる」 と批判的に指摘したのが、量子もつれの現象で、それを 「奇妙な遠隔作用」 と呼びました。
 難解なので簡単にいうと、粒子がAとBに分かれた場合、遠くに(たとえ一光年も)離れていても、粒子Aを観察すると、瞬時に粒子Bへ同じように情報が伝わるというのです。特殊相対性理論では、情報が伝わる速度は有限ですので、この現象をアインシュタインは 「奇妙な遠隔作用」 と見なして量子力学を疑問視したのです。このパラッドクスが発表されて半世紀経ったころ、実験によって正しいことが検証されましたが、その時アインシュタインは、もうこの世にはいませんでした。
 この 「量子もつれ」 は、科学者は、いずれインターネットなど身近なところで実用化されて、量子コンピュータもこの現象を応用することになるだろうといっています。

 量子論の内容は、以上のようにミクロの世界が持つ奇妙な性格でしたが、アインシュタインは、量子論のすべてを否定するつもりはありませんでした。量子論は完全ではなく、だからあいまいなことしか言えないと考えていたようです。
 一方、ボーアは、これらの奇妙な性格は、量子論によって明らかになった自然の真の姿であるとみなし、量子論が描く 「あいまいな自然」 こそが、自然の究極の姿であると考えたのでした。

 私たちは、「客観的な事実」 が存在するということを信じて疑いません。古典的物理学では、自然界のあらゆるものは、人間と無関係に存在していて、客観的に観測できると考えていました。ところが量子論では、そうした客観的な存在を否定しました。
 それに対してアインシュタインは、生前に、「量子論の言い分が正しいのであれば、月は我々が 『見た』 からそこにあり、我々が見ていないときにはそこにはいないことになる。これは絶対に間違っていて、我々が見ていないときにも、月は変わらず同じ場所にあるはずだ」 と述べていたそうです。

 量子論を突きつめて考えれば、誰も月を見ていないときは月はなく、誰かが見た時だけ月の居場所が確定するという考えは、私たちの常識から見れば、量子論の世界はあまりにも不可解です。でもそれが真実らしいのです。量子論は、量子コンピュータにも利用されて実用化してきていますので、間違いではないと思います。
 オーストリアの物理学者シュレーディンガーは、量子力学を打ち立て、量子論建設への貢献でノーベル賞を受賞しましたが、量子論を嫌悪し続けました。そして、量子論の問題点を指摘して、「シュレーディンガーの猫」 というパラッドクスを作りました。その問題点は、まだ誰にも解決できていません。


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