生きて死んで、そして魂のゆくえ

生きて死んで、そして魂のゆくえ 7


量子力学の展開

 ここで私たちは、量子が大変に奇妙な世界であることを理解すると共に、常識に縛られた世界観から解き放たれる必要があります。つまり量子論で示された事実を受け入れることなのです。

 もともと純粋な理論物理学である量子論は、このように理解し難いのですが、いつの間にか量子力学として生活に入り込んでいるのです。現在私たちの身の回りにあるパソコンやスマートフォンなどデジタル機器の30パーセント近くの部品は、量子力学の最新の研究成果を活用して作られているのです。現実からかけ離れた 「純粋理論」 の量子力学が、気がついたら現代生活に不可欠な技術として、私たちの身の回りを取り囲んでいるのです。

 また量子力学による生命の探求は、「量子生物学」 として注目を集めています。たとえば、渡り鳥が地球の磁力を利用して飛行ルートを定めていることは、これまでも予測されていました。地磁気は、普通の磁石の100分の1以下なので、生物学的な器官でこれを正確に計算することは不可能でした。では、どうして磁力を感知していたのか? 渡り鳥の網膜細胞から放出された電子と、磁力が量子もつれになり、渡り鳥は地磁気の流れを見ることができるというのです。
 このような量子生物学の研究で、生物の細胞内における遺伝コードのメカニズムや植物の光合成の仕組みなど、植物のDNAの複製をつくるのにも 量子現象が関与していることが明らかになってきています。

 それにまた量子は、生命に深く関係があります。「量子効果」 の中に、「量子トンネル効果」 があります。エネルギー的に通常は超えることのできない壁を粒子が通り抜けてしまう現象です。
 この量子トンネル効果があるので、太陽の中心部にある水素の原子核が障壁をくぐり抜け、核融合反応を起こし、太陽の陽光が地球上に降りそそいでいるのです。量子の不思議な力がなかったら人間は生きていけなかったでしょう。
 また量子トンネル効果は、生命の誕生にも大きく関わっています。原初の生命は「RNA」 という自己複製能力を獲得することによって誕生しました。この配列が偶然に生まれる確率は、何百億年かかっても見つからないといいます。RNA分子の塩基配列が、量子トンネル効果によって量子ジャンプを高速で繰り返して、自己複製能力を持つ塩基配列を探し当てたと考えられています。

 量子論で最も興味を惹かれるのは、肉体が無くなっても意識は宇宙に残るという仮説です。それでは、死んだあと意識(魂)はどこへ行くというのでしょうか? このことを知るには、量子論から見た宇宙を理解する必要があります。

 量子論によると、この宇宙はすべて原子からできているといいます。原子は、現実をつくる基本的な粒子で、それ以上分割されず、万物を構成し、空間の中を自由に動き回り、結合したり、押し合ったり、引き合ったり、類似する原子は引きつけ合って一つになろうとするものだと説明します。
 これらのことは、量子論以前の遥か昔、古代ギリシア人のデモクリトスが、2千数百年前にすでに考えていたというから、何とも驚きです。

 これに加えて現在の量子論では、デモクリトスでも思いつかなかった、粒子が突然消えたり、生まれたりして、消滅と生成を繰り返していることが分かっています。
 そして空間とは何もない空っぽの入れものではなく、一般相対性理論によって動的なものだということが分かってきました。アインシュタインの表現では、空間は動いている軟体物で縮んだり、曲がったりしているのだそうです。その空っぽの空間は、「空間の原子」 ともいえる粒によってつくられ、細かな粒子状の構造になっていて、その微粒子が空間に詰まっているのです。
 その粒はどれくらい小さいかというと、もっとも小さな原子核の一京(けい)分の一(京=1000兆×10)くらい小さいといいますから、真空は何もない空間ではないのです。実はこの真空には目に見えない 「真空エネルギー」 が満ちているというのです。
 そしてこの 「真空エネルギー」 と宇宙の誕生とは、密接な関係があったのです。

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